スパコン「Watson」が教える医療ITの成功法則
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米IBMが開発したスーパーコンピュータ「IBM Watson」(以下、Watson)の採用は、医療分野におけるビッグデータの活用事例として、最も分かりやすいものの1つだ。Watsonは高い処理能力を備えており、データを素早く「理解」して診察中の医師を補佐したり、医学専門誌から学んだ大量のデータに基づき具体的な情報を提供したりできる。
Watsonをはじめ、他にも多くの医療関連のビッグデータプロジェクトが驚くべき成果を出している背景には、ある重要な技術要素の存在がある。自然言語処理(以下、NLP)と呼ばれる技術だ。
※関連記事:現場で役に立たない? 医療データ予測分析の「理想と現実」
→ http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1210/18/news04.html
NLPは、非構造化データのマイニングと分析を行うソフトウェアとアルゴリズムで構成され、特定の文脈における人間の言葉をコンピュータに理解させることを目指している。臨床現場での活用事例としては、例えば、医師はコンピュータに対し、電子健康記録(EHR)システム内の大型データセットや往診記録などの非構造化データから、患者の主訴を抽出するよう要求できる。EHRシステムの特定のフィールドに主訴が記録されていなくても、NLPには、入手できる全てのデータを処理し、高い精度で情報を特定して抽出する能力がある。
医療を含む各種市場における現行の活用事例からすると、この先数年間、NLPは以下の5つの分野で影響力を増すことが予想される。
●1. 臨床データと仮想事務アシスタント
NLPシステムのインタラクティブ(対話)性が高まり、コマンドやリクエストをより正確に理解できるようになれば、現在IBMのWatsonが臨床現場で活用されているのと同じような形で、NLPは臨床医に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
患者の他、臨床スタッフや事務スタッフと対話して情報を収集できるアプリケーションを使用すれば、NLPはさらなる有効性を発揮できる。形態としては、モバイルアプリで仮想アシスタント(Siriなどの音声認識アプリ)を呼び出し、さまざまな依頼に対応させるか、あるいは患者やユーザーが正面に座って利用するキオスク端末が考えられる。こうしたキオスク端末は、患者と対話できるコンピュータベースのキャラクタを搭載した、セルフサービス方式のシステムとなる。将来的には、仮想アシスタントはユーザーの好みに応じて選択できるようになるだろう。例えば、若い患者であれば、同性の若いアシスタントの方が接しやすく感じるだろうし、シニア世代には年齢が高めの仮想アシスタントの方が好まれるかもしれない。
事務処理の観点から、NLPは既に最先端の音声自動応答(IVR)システムの多くに統合されている。病院に連絡すると応答してくれる、自動の電話応答システムだ。治療費を支払ったり、銀行に残高照会の電話をしたりするときに、次のような自動メッセージが流れることがある。例えば、「お支払いのお客さまは1のボタンを押すか、1と言ってください」といったメッセージだ。だがNLPを活用したIVRシステムと比べると、こうした従来型のシステムは時代遅れで非効率的に思えるかもしれない。こうしたシステムに仮想アシスタントを用いれば、発信者により多くの機能を提供できるだけでなく、インタラクティブ性や柔軟性も高められる。外来診療の予約や未払い医療費の支払いといったリクエストにも対応できるはずだ。
●2. データマイニングと分析
研究者や臨床医は、NLPとデータマイニングを用いてEHRなど各種のシステムから収集した臨床情報を活用して、疾病治療への洞察を深められる。治療計画の有効性や患者の病状経過、特定の疾病の共通点などに関して、入手可能なデータセットから情報を抽出し収集できる。その後、NLPはデータのタグ付けと分類にも役立てられる。
●3. データの収集と抽出
院内や系列の診療所でEHRシステムのアップグレードや新規導入を進めている多くの医療機関は、レガシーシステムやレガシーデータをめぐる重大な難題に直面している。医療機関の中には、データが非構造化データであり、音声ファイルやテキストファイル、PDFなど、さまざまなフォーマットで保存されていたり、手書きやスキャンした文書が含まれていたりするところもあるはずだ。一方では、古いデータを抽出して新規システムに配置し、今では単一の包括的なデータリポジトリを所有しているところもある。NLPを使えば、データ変換チームには情報の抽出とマイニングに必要なツールが提供される。こうした場合には通常、検索や抽出の補助として、固有表現抽出(named-entity recognition)などの機能が用いられる。
※関連記事:【製品動向】ソーシャルやビッグデータで変わる「テキストマイニング」
→ http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1210/25/news01.html
●4. 市場分析
ビッグデータはマーケティング幹部や専門家の間で高い支持を得ている。企業はソーシャルメディアなどの情報ソースからデータをマイニングすることで、顧客とつながりを築ける他、自社の取り組みやブランドに対する市場の全体的な反応をより的確に把握できる。病院も、NLPとソーシャルメディアを用いてこうした分析を行えば、できることが増えるはずだ。NLPを活用すれば、オンラインの投稿から消費者の反応を探るという従来の調査手法の必要性は薄れてきている。
●5. リアルタイムの通訳・翻訳サービス
通訳・翻訳は、医療機関からも患者からも要望の多いサービスだ。このサービスによって、明瞭かつ正確なコミュニケーションが保証され、より的確な治療や患者の症状のより深い理解が可能となる。医療機関の中には、通訳者の交通費を節約するために電話会議を使っているところもある。だがNLPの翻訳機能によって、そうした状況も変わっていくはずだ。
米Googleや米Lucent、米Microsoftなどの企業は、アプリケーションや各種のWebサービスを使って、さまざまな言語からの翻訳サービスを提供している。こうした画期的サービスは必ずしも機械翻訳の性能向上によるものではない。むしろ、明示的な逐語訳ではなく、データ重視の翻訳を行う能力によるものだ。機械学習が可能な翻訳エンジンを持つことで、医療機関は新たにオンデマンドの翻訳手法を手に入れられる。
今後、医療機関のIT幹部はビッグデータやNLPの導入を求めることが多くなりそうだ。得られるメリットの大きさを考えれば、当然の成り行きだろう。そのメリットは、新しい洞察を得たり、患者の病状経過を改善したり、より高性能なキオスク端末を設置したり、医師が患者に関する理解を深めたりなど、多岐にわたる。いずれも、病院の経営陣やスタッフ、患者にとって大きな価値をあるものばかりだ。NLPによって、システムとの対話や理解は新たなレベルに引き上げられる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130707-00000007-zdn_tt-sci
※この記事の著作権は配信元に帰属します。
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米IBMが開発したスーパーコンピュータ「IBM Watson」(以下、Watson)の採用は、医療分野におけるビッグデータの活用事例として、最も分かりやすいものの1つだ。Watsonは高い処理能力を備えており、データを素早く「理解」して診察中の医師を補佐したり、医学専門誌から学んだ大量のデータに基づき具体的な情報を提供したりできる。
Watsonをはじめ、他にも多くの医療関連のビッグデータプロジェクトが驚くべき成果を出している背景には、ある重要な技術要素の存在がある。自然言語処理(以下、NLP)と呼ばれる技術だ。
※関連記事:現場で役に立たない? 医療データ予測分析の「理想と現実」
→ http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1210/18/news04.html
NLPは、非構造化データのマイニングと分析を行うソフトウェアとアルゴリズムで構成され、特定の文脈における人間の言葉をコンピュータに理解させることを目指している。臨床現場での活用事例としては、例えば、医師はコンピュータに対し、電子健康記録(EHR)システム内の大型データセットや往診記録などの非構造化データから、患者の主訴を抽出するよう要求できる。EHRシステムの特定のフィールドに主訴が記録されていなくても、NLPには、入手できる全てのデータを処理し、高い精度で情報を特定して抽出する能力がある。
医療を含む各種市場における現行の活用事例からすると、この先数年間、NLPは以下の5つの分野で影響力を増すことが予想される。
●1. 臨床データと仮想事務アシスタント
NLPシステムのインタラクティブ(対話)性が高まり、コマンドやリクエストをより正確に理解できるようになれば、現在IBMのWatsonが臨床現場で活用されているのと同じような形で、NLPは臨床医に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
患者の他、臨床スタッフや事務スタッフと対話して情報を収集できるアプリケーションを使用すれば、NLPはさらなる有効性を発揮できる。形態としては、モバイルアプリで仮想アシスタント(Siriなどの音声認識アプリ)を呼び出し、さまざまな依頼に対応させるか、あるいは患者やユーザーが正面に座って利用するキオスク端末が考えられる。こうしたキオスク端末は、患者と対話できるコンピュータベースのキャラクタを搭載した、セルフサービス方式のシステムとなる。将来的には、仮想アシスタントはユーザーの好みに応じて選択できるようになるだろう。例えば、若い患者であれば、同性の若いアシスタントの方が接しやすく感じるだろうし、シニア世代には年齢が高めの仮想アシスタントの方が好まれるかもしれない。
事務処理の観点から、NLPは既に最先端の音声自動応答(IVR)システムの多くに統合されている。病院に連絡すると応答してくれる、自動の電話応答システムだ。治療費を支払ったり、銀行に残高照会の電話をしたりするときに、次のような自動メッセージが流れることがある。例えば、「お支払いのお客さまは1のボタンを押すか、1と言ってください」といったメッセージだ。だがNLPを活用したIVRシステムと比べると、こうした従来型のシステムは時代遅れで非効率的に思えるかもしれない。こうしたシステムに仮想アシスタントを用いれば、発信者により多くの機能を提供できるだけでなく、インタラクティブ性や柔軟性も高められる。外来診療の予約や未払い医療費の支払いといったリクエストにも対応できるはずだ。
●2. データマイニングと分析
研究者や臨床医は、NLPとデータマイニングを用いてEHRなど各種のシステムから収集した臨床情報を活用して、疾病治療への洞察を深められる。治療計画の有効性や患者の病状経過、特定の疾病の共通点などに関して、入手可能なデータセットから情報を抽出し収集できる。その後、NLPはデータのタグ付けと分類にも役立てられる。
●3. データの収集と抽出
院内や系列の診療所でEHRシステムのアップグレードや新規導入を進めている多くの医療機関は、レガシーシステムやレガシーデータをめぐる重大な難題に直面している。医療機関の中には、データが非構造化データであり、音声ファイルやテキストファイル、PDFなど、さまざまなフォーマットで保存されていたり、手書きやスキャンした文書が含まれていたりするところもあるはずだ。一方では、古いデータを抽出して新規システムに配置し、今では単一の包括的なデータリポジトリを所有しているところもある。NLPを使えば、データ変換チームには情報の抽出とマイニングに必要なツールが提供される。こうした場合には通常、検索や抽出の補助として、固有表現抽出(named-entity recognition)などの機能が用いられる。
※関連記事:【製品動向】ソーシャルやビッグデータで変わる「テキストマイニング」
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●4. 市場分析
ビッグデータはマーケティング幹部や専門家の間で高い支持を得ている。企業はソーシャルメディアなどの情報ソースからデータをマイニングすることで、顧客とつながりを築ける他、自社の取り組みやブランドに対する市場の全体的な反応をより的確に把握できる。病院も、NLPとソーシャルメディアを用いてこうした分析を行えば、できることが増えるはずだ。NLPを活用すれば、オンラインの投稿から消費者の反応を探るという従来の調査手法の必要性は薄れてきている。
●5. リアルタイムの通訳・翻訳サービス
通訳・翻訳は、医療機関からも患者からも要望の多いサービスだ。このサービスによって、明瞭かつ正確なコミュニケーションが保証され、より的確な治療や患者の症状のより深い理解が可能となる。医療機関の中には、通訳者の交通費を節約するために電話会議を使っているところもある。だがNLPの翻訳機能によって、そうした状況も変わっていくはずだ。
米Googleや米Lucent、米Microsoftなどの企業は、アプリケーションや各種のWebサービスを使って、さまざまな言語からの翻訳サービスを提供している。こうした画期的サービスは必ずしも機械翻訳の性能向上によるものではない。むしろ、明示的な逐語訳ではなく、データ重視の翻訳を行う能力によるものだ。機械学習が可能な翻訳エンジンを持つことで、医療機関は新たにオンデマンドの翻訳手法を手に入れられる。
今後、医療機関のIT幹部はビッグデータやNLPの導入を求めることが多くなりそうだ。得られるメリットの大きさを考えれば、当然の成り行きだろう。そのメリットは、新しい洞察を得たり、患者の病状経過を改善したり、より高性能なキオスク端末を設置したり、医師が患者に関する理解を深めたりなど、多岐にわたる。いずれも、病院の経営陣やスタッフ、患者にとって大きな価値をあるものばかりだ。NLPによって、システムとの対話や理解は新たなレベルに引き上げられる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130707-00000007-zdn_tt-sci
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